病院紹介

今回先ず@についての外科的治療を行い、続いてAについても外科的治療(整形外科)を行います。
Bについては外科的治療の必要性はありません。すべての外科的治療が終了しましたら、本格的な
社会復帰に向けたリハビリを行います。先ず脳外科医としての立場で@の治療をご説明します。骨
折は頚椎(首の骨)の7つの骨のうち上から2番目の骨がその基部で骨折しております。このまま放
置しますと、骨折部は首の運動のため癒合と言って(骨接合と言います)くっ付きません。そうなり
ますと、首の痛みは何時までも取れないばかりか、骨折部がどんどんずれて行きいずれは、後方に
ある脊髄と言って脳からの指令(運動神経)や脳への指令(感覚神経)の通り道に障害を来たし、最終
的には四肢麻痺を起こしかねません。そこで手術の目的は首の安静を保ち、骨折部位が癒合し、ず
れない様にする事を目的とします。このために、先ず手術までハロ−ベストと言って御本人が動い
ても骨折した首の骨が少しでもずれない様に胴体と頭部を固定します。方法は頭に4点のスクリュ−
を打ち込み、頭蓋骨まで達するようにして頭部を固定し、これと胴体に丁度フットボ−ルの防具様
なものを着て貰い、これと頭部の固定したところを連結します。この防具を永遠につけて行く訳に
は勿論行きませんので、手術で頚部自体が動かない様に固定する訳です。その上でX-PやCTで骨折部
の状態を見ながら、1−2ヶ月でこの防具を取り外しても良いかを見定め、最終的には手術で固定し
た事で骨折部の癒合を待ちます(手術後約3ヶ月)。以上が治療の大体の流れです。そこで手術方法に
ついて説明します。ハロ−ベスト装着後。2月22日に全身麻酔下でハロ−ベストを付けたまま、ご本
人はうつ伏せの状態となります。今回は2番目の骨の骨折ですので、頚椎の1番目と2番目あるいは3
番目のいずれか一つを、その後方部分の骨を使って上下に動かない様に固定します。最初に、腰の
骨(骨盤の骨:腸骨と言います)より骨髄と言って骨の中味(白血病などで骨髄バンクと言っている事
をご存知かもしれませんが、血液や骨の元となる組織です)を採取し、金属で固定した部分が少しで
も早くご自分の骨とくっ付きやすくするために、手術野に使うために採取しておきます。続いて、
首の後ろの正中(真ん中)に上下に皮膚を切開し頚椎の後方部分を露出します。第1頚椎の椎弓と言っ
て、リング状になった頚椎の外側〜後方の骨から、頚椎の外側の太くなった部分に左右ともスクリュ−
を打ち込みます。同様に第2あるいは第3頚椎も側方〜後方より外側部の太くなった部分にスクリュ−
を打ち込みます。各々の打ち込んだスクリュ−の飛び出した頭の部分を使って、上下・左右に橋渡
しする様に金属製のロッドと呼ばれ棒を挿入し1−2頚椎が上下の首の運動で動かない様に固定する
訳です。 予定ではこのロッドにより丁度アルファベットのH型になる様に考えていますが、場合に
よっては上下だけかもしれません。これらの操作で最も難しく時間が掛かるのは、第1頚椎の椎弓
にスクリュ−を打ち組む時です。打ち組む近所には、椎骨動脈と言って、脳の後方部分に大半の血
液を送る大切な血管が走行している事です。またその血管の周りには多くの静脈が絡まる様にあり、
この操作でまず大量の出血が予想されます。個人差がありますので一概には言えませんが、多くの
場合は輸血を必要とします。ご本人の血液を手術前に取っておいて、手術の時に使う方法もありま
すが、今回は時間がありませんので日赤の保存血を使用します。1600mlの血液を用意しておきま
すが、場合によってもっと必要となる事もあり、状況によっては代用の血漿(アルブミン製剤と言っ
て他人より採取し処理したもの)を使う方法もありますが、輸血を更に必要とする場合は追加注文し
使用させて頂きます。また、手術は手術中にレントゲンの透視装置をセットして、スクリュ−を打
ち込む方向に間違いが起きない様に慎重に行いますが、それでも間違った方向にずれる事もあり、
少なくともこの動脈を損傷する事だけは避けないとなりません。この点が最大の問題点です。第2頚
椎あるいは第3頚椎については、第1頚椎よりはこれらの注意点は少ないのですが、やはり椎骨動脈
の損傷に注意して慎重に行います。これらの操作が終わりましたら、後は後方にロッドを装着し、
採取した骨片・骨髄をこの金属製のロッド周辺に散布します。手術野の止血を充分に行い、術野に
ドレ−ンと言って術後余分に溜まった血液を体外に出す管を入れ、筋肉、皮膚を密に縫合し手術を
終了します。以上の操作で約6時間〜6時間30分を想定しております。術後は直ちにご本人をうつ伏
せ状態からお戻し、出来るだけ直ぐにCT検査を行い、手術の状態を確認します。その後麻酔の管が
必要なければ抜きますし、長時間の麻酔からの覚醒(目覚める事)が悪いときは翌日まで麻酔を続け
る場合も想定しております。首の手術ですので、不完全な覚醒で麻酔の管(手術中に人工呼吸をする
ために気管内に挿入する管の事です)を抜きますと、術後再度呼吸状態が悪化して管を入れようとし
ても、ハロ−ベストをしていたり、首を無理に動かしたりできないため、気管内に管を再度入れる
事が大変難しく、重大な事故、結果に結びつく事があります。このため、手術後の状態で慎重に判
断しますので、手術後麻酔の管が入ったままお部屋に帰る可能性もある事を予めご了承下さい。ま
たきちんとご説明しますので心配しないで下さい。また、先に述べました様に、どんなに慎重に行っ
ても術直後のCT検査で打ち込んだスクリュ−が想定した所に入らず、折角行った手術の効果が半減
すると判断した時は、再度手術をし直す事もありますので、こちらも予めご了承下さい。

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佐藤第一病院
SATO-D1 HOSPITAL

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治療計画の1例
 (診断:@第2頚椎・推体骨折 A右膝隆起窩骨折 B左鎖骨近位端骨折)

@術中に大量の出血が予想される事。輸血の必要性がかなり高い事。
A打ち込んだスクリュ−が正しい方向に向かわず、再度打ち直す可能性がある事。
B大切な血管(椎骨動脈)を損傷し脳への血流が損なわれる可能性がある事 この場合、片側だけであ
 れば椎骨動脈は脳の中に入りますと、反対側と合流しますので、全く症状が出ない事もあります。
 しかし、損傷側の動脈が2本ある椎骨動脈の大切な側の場合、重篤な脳の障害(意識障害、片麻痺、
 半側の知覚障害、呼吸障害など)を来たしたり、時に生命に危険を及ぼす事もある事は知っておい
 て下さい。
C全身麻酔は現在、以前に比べてかなり安全にはなっております。しかしそうは言っても100%安全
 と言う訳ではありません。当院では私たちが赴任して以来、外科系麻酔は5000例以上になると思い
 ますが、過去に1例予期せぬ術後の心筋梗塞でお亡くなりになった方がおられます。その時も手術
 や術中の管理には全く問題はなく、不可抗力で発生したものと考えております。またうつ伏せ状態
 での麻酔ですので、術中に心臓に問題があっても心臓は麻酔医の位置と反対側にあり、対応がどう
 しても遅くなります。これがうつ伏せ麻酔が通常の麻酔よりも危険性が高い点です。
D輸血を行った場合も、現在輸血に用意する血液は充分かつ慎重な検査を経てからのものを使用して
 おりますが、医学は完全なものではなく、未知のウイルスなどに感染する可能性は常にあり、想定
 外の事が起きる事も御了承下さいませ。
E術後は経過が順調であり、スクリュ−の方向性も問題なく、神経学的検査(意識状態、手足の動き
 や感覚など)でも異状がない様であれば、早めに右膝の治療を整形外科でお願いする予定です。
F脳外科、整形外科の治療が順調に進みましたら、ハロ−ベストを少なくとも1ヶ月は装着して頂き
 (CTなどで判断しますが)、早期のリハビリを始めます。
G以上大変な治療プログラムですが、一番大切なのは我々よりもご本人が一日でも早く治りたいと考
 え、焦らずにまた時には大胆に気持ちをしっかり持って、対処される事と思います。よって決して
 投げやりになったりせず、諦めない気持ちを持つ事が重要です。

手術の問題点